洪自誠

人生について深く考える者は

一時的に孤独である。一方、深く考えない者は一時的に幸福を感じるかもしれないが、最後には孤独に直面する。

愚人の失敗を批判するよりも

賢人の素晴らしい行いについて語り合ったほうがよい。

権力に取り入ることで

一時的な恩恵を受けても、その権力者が失墜すれば、かえって厳しい報いを受けることになる。

見通しの立たない計画に

頭を悩ますよりも、すでに軌道に乗った事業の発展をはかるがよい。過去の失敗にくよくよするよりも、将来の失敗に備えるがよい。

主義や道徳を振りかざすほど

誤った時に強く非難される。だからこそ名声を求めず、悪にも近づかず、静かに穏やかに生きることが大切である。

人を避けようとするのは

まだ自分に囚われている証拠であり、静寂に執着するのは、すでに心に動揺が兆している証拠ではないか。

十回のうち九回正いことをしても

誉められるとは限らない。一回でも外れれば非難される。君子が多弁よりも沈黙を選び、利口ぶるよりも無能を装うのはそのためです。

About

洪自誠

洪自誠(本名洪應明、号還初道人)は、明代万暦年間(16世紀末〜17世紀初)の文人・思想家です。彼は儒教・仏教・道教の教えを融合し、独自の人生観と処世哲学を展開しました。代表作『菜根譚』は、日常生活や人間関係、自然との調和についての短文随筆集であり、前集と後集に分かれています。

洪自誠は若い頃は仕官を志しましたが、晩年は隠遁し、清貧と精神修養を重んじる生活を送りました。『菜根譚』は「人能咬得菜根,則百事可成(人は菜根を噛むように苦労に耐えれば、何事も成し遂げられる)」という精神を体現し、倫理性・風雅性・処世の知恵に富み、後世に大きな影響を与えています。