人間の一生は本当にわずかなものだ

人間の一生は本当にわずかなものだ

だから、自分の好きなことをして生きるべきだ。この世は夢のように儚いのに、好きでもないことばかりして苦しみながら生きるのは、愚かなことだ。

人間一生誠に纔の事なり。好いた事をして暮すべきなり。夢の間の世の中に、すかぬ事ばかりして苦を見て暮すは愚なることなり。

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山本常朝

山本常朝(やまもと つねとも、1659年~1719年)は、佐賀藩に仕えた江戸時代中期の武士・思想家であり、死後に口述がまとめられた著作『葉隠(はがくれ)』によって広く知られる。「武士道と云ふは、死ぬことと見つけたり」という一節に象徴されるその思想は、武士の倫理観と精神的覚悟を極限まで純化したものであり、近世武士道の典型を示している。

常朝は実戦の機会を持たず、隠居後に若い武士・田代陣基に語った言葉を通じて、自身の理想とする武士像を伝えた。その内容は忠義・礼節・死生観・日常の修養にわたり、儒教・禅・神道の要素を含みつつ、過剰な合理性や形式主義を退け、「誠」や「覚悟」といった内面的価値に重きを置いた点に特徴がある。

『葉隠』は一時期、危険思想と見なされ埋もれていたが、近代以降、特に明治期以降の軍人教育や戦前日本の精神主義と結びついて再評価された。一方で、常朝の思想はあくまで一武士の個人的・内面的修養論として読むべきであり、その倫理は今日においても「自己の在り方を問う思想」として読み直す意義を持つ。